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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)5545号 判決

原告

協同組合新大阪センイシティー

右代表者代表理事

米田喜一

右訴訟代理人

岸本亮二郎

被告

有限会社生興商店

右代表者

金重昌浩

右訴訟代理人

礒川正明

被告

日本貯蓄信用組合

右代表者代表理事

米田鹿男

右訴訟代理人

松田安正

華学昭博

主文

一  被告有限会社生興商店は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物につき、大阪法務局北出張所昭和五二年一〇月一七日受付第四八八四一号所有権移転請求権仮登記に基づき、別紙物件目録(二)記載の建物につき、大阪法務局北出張所昭和五二年一一月二五日受付第五五〇八三号所有権移転請求権仮登記に基づき、それぞれ昭和五七年五月一八日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二  原告の被告日本貯蓄組合に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告有限会社生興商店との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告日本貯蓄信用組合との間においては、全部原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  主文第一項と同旨。

2  被告日本貯蓄信用組合は、原告に対し、原告が主文第一項の登記手続をすることを承諾せよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二  被告有限会社生興商店(以下、被告会社という)

1  原告の被告会社に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

三  被告日本貯蓄信用組合(以下、被告組合という)

1  主文第二項と同旨。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、被告会社との間で、昭和五二年九月一〇日、次の合意を含む基本契約(以下、本件1の契約という)を締結した。

(一) 被告会社は、原告に対して負担する金銭債務を担保するため、その不履行があるときは、弁済に代えて原告に別紙物件目録(一)記載の建物(以下、本件(一)の建物という)の所有権を移転する旨の代物弁済の予約をし、右代物弁済予約を登記原因とする所有権移転請求権仮登記手続をする。

(二) 右代物弁済における被担保債権の範囲は次のとおりである。

(1) 金銭貸借取引による現在及び将来の一切の債権

(2) 保証委託取引による現在及び将来の一切の債権

(3) 手形上及び小切手上の現在及び将来の一切の債権

(4) 原告が被告会社に対して有する昭和四五年一二月二八日付の本件(一)の建物についての売買契約及びその敷地の賃貸借契約に基づく債権

(三) 被告会社に対し、和議の申立があつたとき、原告からの通知催告がなくても被告会社は当然に被告会社の原告に対する債務の期限の利益を失う(以下、これを本件特約という)。

そして、原告は、右合意に基づき、本件(一)の建物につき大阪法務局北出張所昭和五二年一〇月一七日受付第四八八四一号所有権移転請求権仮登記(以下、本件(一)の仮登記という)を経由した。

2  原告は、昭和五二年一一月一八日、被告会社との間で、別紙物件目録(二)記載の建物(以下、本件(二)の建物という)について、本件1の契約と同一内容の基本契約(「本件(一)の建物」を「本件(二)の建物」と読み替える。以下、本件2の契約といい、本件1の契約とともに本件仮登記担保契約という。)を締結し、この合意に基づいて、本件(二)の建物につき大阪法務局北出張所昭和五二年一一月二五日受付第五五〇八三号所有権移転請求権仮登記(以下、本件(二)の仮登記という)を経由した。

3  被告会社は、昭和五七年二月二六日、和議申立をされた。

4  原告は、被告会社に対し、昭和五七年三月一七日到達の書面で代物弁済予約完結の意志表示をするとともに、二か月後における本件(一)、(二)の建物の見積価額(金六四五〇万円)、被担保債権額の合計(貸付金九〇〇〇万円、売買代金三〇二万二二〇〇円、防災施設分譲未収金一一六万一九〇〇円のほか、利息金や遅延損害金)、及び清算金がない旨の通知をした。

5  原告は、右予約完結の意思表示の後二か月を経過したことにより、昭和五七年五月一八日、代物弁済によつて本件(一)、(二)の建物の所有権を取得した。

6  被告組合は、被告会社との間で、本件(一)、(二)の建物につき、大阪法務局北出張所昭和五六年七月七日受付第三三〇六一号根抵当権設定登記を経由している。

7  よつて、原告は、被告会社に対し、本件(一)、(二)の建物について、本件(一)、(二)の仮登記に基づく本登記として、昭和五七年五月一八日代物弁済を原因とする所有権移転手続を求め、被告組合に対し、原告が右本登記手続をすることの承諾を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告会社)

請求原因第1項ないし第5項の各事実は認める。

(被告組合)

1 請求原因第1項のうち、原告が本件(一)の仮登記を経由していることは認め、その余の事実は不知。

2 同第2項のうち、原告が本件(二)の仮登記を経由していることは認め、その余の事実は不知。

3 同第3項の事実は認める。

4 同第4項の事実は不知。

5 同第5項の主張は争う。

6 同第6項の事実は認める。

三  被告組合の主張

1  被告会社に対する和議申立の日に、大阪地方裁判所の和議開始前の保全処分(債務の弁済禁止を含む)がなされたから、本件特約(期限の利益喪失の特約)の効力は生じない。

したがつて、原告が予約完結権を行使できる実体上の権利は発生していない。

2  原告は、本件仮登記担保を実行するに際し、被告組合に対し、原告が被告会社に請求原因第4項の通知をした旨、その通知が被告会社に到達した日及び通知した事項を、通知しなかつた。

したがつて、原告は、本件登記に基づく所有権の取得を被告組合に対抗できない。

3  被告組合は、昭和五七年一〇月八日、大阪地方裁判所に対し、本件(一)、(二)の建物について担保権の実行としての競売の申立をし、同裁判所は、同月一三日、競売開始決定をした。

四  被告組合の主張に対する原告の反論

1  被告組合の主張1について

期限の利益喪失の特約が、和議開始前の保全処分により効力を生じないとする法的論拠はない。

2  被告組合の主張2について

原告が、被告組合に対し、同被告主張の通知をしなかつたことは認めるが、右通知の欠缺は、原告が仮登記担保権の行使により本件(一)、(二)の建物の所有権を取得することの妨げになるものではない。

仮登記担保契約に関する法律(以下、仮登記担保法という)五条一項の通知は、清算金に対する物上代位の機会を与えるためのものであり(同法六条二項参照)、競売請求の機会を失つたことによる後順担保権者等の救済は、不法行為に基づく損害賠償でまかなえば足りる(もつとも、本件では競売によつて剰余を生ずる見込みがないので損害発生の余地はない)。

3  被告組合の主張3の事実は認めるが、清算期間経過後の申立であり、原告は被告組合に対抗できる。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一原告の被告会社に対する請求について

1  請求原因第1項ないし第5項の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実によると、被告会社は原告に対し、本件(一)の建物については本件(一)の仮登記に基づき、本件(二)の建物については本件(二)の仮登記に基づき、それぞれ昭和五七年五月一八日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をする義務がある。

二原告の被告組合に対する請求について

1  請求原因第1項のうち、原告が本件(一)の仮登記を経由している事実、同第2項のうち、原告が本件(二)の仮登記を経由している事実、同第3項の事実、同第6項の事実、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いがない事実に弁論の全趣旨を総合すると、請求原因第1項ないし第6項(但し、同第5項を除く)の各事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2  そこで、被告組合の主張について判断する。

(一)  期限の利益喪失の特約に関して

(1) 被告会社は、昭和五七年二月二六日、和議の申立をされたので、本件特約によつて、和議の申立と同時に債務の期限の利益を喪失したというべきところ、被告組合は、和議申立の日に被告会社に対し債務弁済禁止の保全処分がなされたから、本件特約の効力は発生しないと主張する。

しかし、被告組合の右主張は、本件特約の効力発生時より前に保全処分がなされたと主張するものではないし、また、本件特約の効力発生時以後に保全処分がなされることにより特約の効力が消滅するという趣旨であれば、その根拠が明らかでないから、いずれにしても、主張自体失当というほかはない。

(2) したがつて、被告組合の主張1は採用できない。

(二)  仮登記担保法五条一項違反について

(1) 原告が本件仮登記担保を実行するに際し、被告組合に対し、①原告が債務者である被告会社に清算金がない旨の通知をしたこと、②その通知が被告会社に到達した日及び③右通知した事項を、通知しなかつたことは、当事者間に争いがない。

そして、被告組合が本件担保仮登記後に根抵当権設定登記を経由していることは既に判示したとおりであるから、本件は、仮登記担保法五条一項に違反することが明らかである。

(2)  そうすると、原告は、本件仮登記担保の実行に際し、適法な手続を履践していないのであるから、右担保権の実行によつて本件(一)、(二)の建物につき所有権を取得したとすることはできない(少くとも所有権の取得をもつて被告組合に対抗することはできない)というべきである。

原告は、仮登記担保法五条一項に違反しても、同法六条二項の効果(清算金の支払の債務の弁済をもつて対抗できない)が生じるか、又は、損害賠償が問題となるに過ぎず、所有権の取得を妨げるものではないと主張する。しかし、仮登記担保法の機能する場面においては、後順位担保権者は、仮登記担保権者が債務者に通知した清算金の見積額を低額であるとして争うことができず(同法八条二項)、その代りに競売請求をすることができ(同法一二条)、それによつて仮登記に基づく本登記の請求を阻止する途が残されている(同法一五条一項)のである。したがつて、競売請求の選択によつて後順位担保権者と仮登記担保権者の利害の調整が図られているというべきである。しかるに、仮登記担保権者が後順位担保権者に仮登記担保法四条一項の通知を怠ることは、後順位担保権者のこの利益を不当に奪う結果になるのであり、それは損害賠償請求によつて救済すればよいというものではない。その理由は、仮登記担保権者が不当に低額に清算金を見積つたとき、後順位担保権者は競売請求によつて簡便に公的機関の判断による適正な評価が得られるのに対し、損害賠償請求の場合には、後順位担保権者が損害発生につき立証責任を負うという不利益があるからである。そればかりでなく、もし、仮登記担保法五条一項に違反しても本登記請求の妨げにならないとすると、競売請求を回避しようとする仮登記担保権者は、すべて同法五条一項の通知を意識的に無視することになり、仮登記担保の実行と競売手続との調整を目的とした同法の立法趣旨が没却されることにもなりかねない。

このようなわけで、同法五条一項の通知がない場合には、仮登記担保権の実行として本登記手続の請求をすることは許されない(少なくとも通知しなかつた後順位担保権者に承諾を求めることはできない)と解するのが相当である。このことは、抵当権の実行をするには、滌除権者に予めその旨の通知を要する(民法三八一条)とされており、この通知を欠くときには、手続自体が不適法であるとして抵当権の実行が許されないのと同様である。

(三)  なお、被告組合が昭和五七年一〇月八日本件(一)、(二)の建物につき競売の申立をし、同月一三日競売開始決定がなされたことは、当事者間に争いがないので、仮に被告組合に対する本件訴訟の提起(本件訴状の送達の日が昭和五七年八月二一日であることは記録上明らかである)によつて仮登記担保法五条一項の通知がなされた場合と同視しうるにしても、同法一五条二項に準じて、原告は被告組合に対抗できない関係にある。

3  まとめ

被告組合は、原告が本件(一)、(二)の建物につき仮登記に基づく本登記手続をするにつき承諾すべき義務はない。

三むすび

以上の次第で、原告の被告会社に対する請求は理由があるから認容し、被告組合に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する(孕石孟則)

物件目録(一)

一棟の建物の表示

大阪市淀川区西宮原町弐丁目七弐番地、八六番地、九〇番地仮換地、新大阪駅周辺

第六〇参ブロック 符号四、五、六、七、八

第六〇四ブロック 符号壱、弐、参、四、五、六、七、八、九、壱〇、壱壱、壱弐

第六〇五ブロック 符号壱、弐

鉄筋コンクリート造陸屋根地下弐階付七階建

床面積 壱階 参壱〇六六m2壱参

弐階 弐八六壱六m2七五

参階 壱七六五七m2〇六

四階 壱壱九八m2五六

五階 壱壱九八m2五六

六階 壱壱九八m2五六

七階 壱壱九八m2五六

地下壱階 七壱m2六九

地下弐階 参参七五六m2七四

専有部分の建物の表示

家屋番号 西宮原町弐丁目七弐番の参七五

建物の番号 壱〇五―参七五

鉄筋コンクリート造参階建店舗、倉庫

床面積 壱階部分 四参m2九参

弐階部分 四参m2壱七

参階部分 参九m2弐八

物件目録(二)

一棟の建物の表示

大阪市淀川区西宮原町弐丁目七弐番地、八六番地、九〇番地

仮換地 新大阪駅周辺

第六〇参ブロック 符号四、五、六、七、八

第六〇四ブロック 符号壱、弐、参、四、五、六、七、八、九、壱〇、壱壱、壱弐

第六〇五ブロック 符号壱、弐

鉄筋コンクリート造陸屋根地下弐階付七階建

床面積 壱階 参壱〇六六m2壱参

弐階 弐八六壱六m2七五

参階 弐七六五七m2〇六

四階 壱壱九八m2五六

五階 壱壱九八m2五六

六階 壱壱九八m2五六

七階 壱壱九八m2五六

地下壱階 七壱m2六九

地下弐階 参参七五六m2七四

専有部分の建物の表示

家屋番号 西宮原町弐丁目七弐番の参九七

建物の番号 壱〇壱―参九七

鉄筋コンクリート造参階建店舗、倉庫

床面積 壱階部分 八八m2五九

弐階部分 八七m2八参

参階部分 七九m2九壱

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